天空渓鱒(てんくうたにます)[渓流と湖の釣り/IN THE FIELD vol.43]

木曽川水系、林道より雲海を望む

天空渓鱒(てんくうたにます)

 

林道の途中

 天空と称する位置なんて地域によっても人によっても、その印象は様々だと思う。今回、私が釣りに行った場所を天空と位置づけたのは、唯たんに雲海が眼下に見渡せたからだった。

 車止めからは折りたたみの自転車に乗り換えて目的の渓に向けてひた走る。行きは下りが多くとても快適だったが、帰りの苦労を思うとあの見えないコーナーの先には緩やかな登りがあってほしいと祈る…そんな祈りも虚しく駆け抜けていく自転車。車輪は速度を増すばかりだ。

 初夏の日差しを浴びながらも汗ばむことはなかったが、ひとたび登りの道が始まるとじっとりと背中に汗をかいた。車輪のかわりに今度は胸の鼓動が加速度的に上昇する。先程までの下りが快適すぎた反面、今日はじめて味わう登り坂は辛すぎる。同行した釣友から「一定の心拍数をキープした方がいいよ」と言われたので、そこからは無理をせず少しでも登り坂になれば自転車を降りて手で押して歩くことにした。

 

入渓点へは自転車でアプローチ

 

 一度林道を下りきり、最下流部まで降りてみると…水がない。予定した支流を諦め、来た道を戻ることにする。

 途中、ボサの切れ目から垣間見えた区間は硬い岩盤の上を水が滑るように流れており、所々に淵が点在するように見えた為、先程の支流より、ほんの少し期待を持たせてくれたのでした。

 

実釣開始

 同行した友人に先行を譲り、この区間を釣り上がってもらった。最初のポイントがプールだったので「ここで釣れなきゃ、釣り上がっても釣れないやろ」そんなことを会話しながらミノーを打ち込むも、魚影は確認できなかった。

 案の定、その区間で魚をキャッチすることはありませんでした。

 

来た道、戻ります

 一旦、川から上がり自転車を漕ぎ出す。支流に沿うように作られた林道をひたすら登り、今度は頂きを目指す。再び川に降りたのは、地図上では川の表記が消えているような上流部。

 どんな細流だろうかと思っていたけど、心配をよそに視界が開けた普通の良渓でした。

 

幸先よく1尾目

木曽川水系のイワナ

 上流部の区間に入ると早々に1匹目が釣れてくれた。この地点ですでに標高1416m。普段渓流釣りをしているのが1000m前後だから、それと比べるとだいぶ天空に近づいてると思えた。その後は2人して登るものの、チェイスの数はすごいがなかなか針掛かりしないという、何とも歯痒い局面に遭遇、時に掛かっても今度はスーパーネイティヴ特有の激しいジャンプで即効フックアウトを喰らう始末。

 長い沈黙の後、釣れてくれたのはボサの茂る区間でのことでした。

 

天空に棲む魚達

木曽川水系のヤマトイワナ

 標高の関係なのか、川の性質なのかはわからないけど、俗に言うハイブリットなイワナは見かけることがなく、釣れてくれるのは皆、ヤマトイワナ特有の白点のない無斑な背中がとても綺麗な魚達。その神秘的な魚体はどこの魚とも交わらず、この川でその命を紡いできた証であると思いたい。

 源頭に近づくほどに枝沢が増え、その細い流れを見る度に、きっと増水時の隠れ蓑になるんだなとか、産卵期にはここに遡上して子孫を残すんだなとか、いろんなことが想像できた。

 

木曽川水系、源頭のイワナ

 本日、最後に獲れたこの魚は標高1453mの地点、この先はボサに覆われミノーを投じることもままならない渓相でした。地理院地図の上でもとっくに川を表す水色の線は消えていましたが、まだまだ岩魚が住むには充分な水量を有していたので、奥にはものすごいのが潜んでいるのかもしれません…まだ見ぬこの先へ期待を抱き、夢中で山を駆け上る。渓流釣りの魅力は本当に果てがないと思いました。

 

退渓

でも帰れなくなると大変なので、早めに切り上げました(笑)

 

木曽川水系、山岳渓流のイワナ釣り

 

タックル

ロッド:パームスエゲリア(テレスコ)411
リール:セルテートヴィンテージカスタム1503
ライン:PE0.5号+フロロ4lb
ルアー:ツインクルディープ

撮影機材
カメラ:SONY α7Ⅱ
レンズ:カールツァイス24-70

ロケーション
木曽川水系 初夏

 

Satoru Sasaki

PHOTO & TEXT

[IN THE FIELD] The 6th angler
佐々木 悟

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