マイノリティー雨子 [渓流と湖の釣り/IN THE FIELD vol.42]

飛騨川水系のアマゴ釣り

マイノリティー雨子

 

川選び

ここ最近、仕事の都合や個人的な野暮な用事やらで、思うように釣りに出掛けられずにいた。
トラウト雑誌の写真を見ながら、溜息をつく日々。
「源流イワナの特集」では、よく釣行を共にするアングラーの記事が掲載されている。
去年の今頃も一緒に釣りをした事が思い出される。
「釣れなかったけど楽しかったな。」
何処で合流して、何処で釣りして、何処で風呂に入り、どんな飯を食べたか…色々と蘇る。
あの時は川から川へと転々と釣り歩いたんだった。
そして、幾つかの候補がある内で、日程的にどうしても竿を出せない川があった事を思い出した。
それが今回ここへ来た経緯。

 

安全でいい釣りができますように。

 

期待と不安

あの時は急ぎ早に風呂を目指していた為、じっくりと川の様子を見ることは無かった。
しかし、こうして改めて見てみると、昨年釣りをしなかった事を後悔する程、渓相の良い川だった。

飛騨川水系イワナとアマゴの渓

 

初めての川で釣りをする際、欲しい情報は「遊漁規則」のただ一つ。
「何処が釣れる。」とか「何のルアーで何色が効く。」という情報は敢えてシャットアウトしておたいというのが僕のポリシーでもある。

釣りに出掛ける際は気の置けない仲間達に口を滑らせると、後に『どうだった?』と聞かれる事と成るのは容易に想像がつく。
万が一、釣れずに帰る事と成った場合には、「情報不足で…」という言い訳にも使える。
そうしなくてもいい様に、ここはきっちりと釣果を残しておきたいところだ。
何よりも、この地の渓魚達を見てみたい。
初めての川を目の前に期待と不安が入り混じった。

 

渓流釣りの朝

 

ファーストキャスト

早朝。先ずは相棒との散歩で始まる。
渓間の冷たい空気を感じながらのんびりと過ごす時間は悪くない。
川沿いの道を歩きながら、降りられそうな場所や釣れそうなポイントを探す。
水の音や鳥の声に耳を傾けながら大人の余裕を演じてみたが、油を売り売り歩く相棒を待っていては日が昇ってしまいそうなので、流石に急かして先に進む。

木下進二朗の渓流ルアー釣り

ようやく車に戻ってからは朝ごはんを与え、その合間に釣り支度。
ウェーダーを履く間、コッヘルにインスタントスープ一杯分の水を火に掛けておくと、シューズの紐を絞めた頃にはグツグツと音を立て白い湯気が立ち上っていた。
コーンスープの素を溶かし、スプーンでグルグルと掻き混ぜる。
急いで用意したスープは、溶け切らず底に残った濃い部分が、目覚めの悪い僕の頭に良い刺激を与えてくれた。
そして、先ほど見つけておいた入渓点へと急ぎ、ガサゴソと斜面を降りて、朝日に照らされ輝く水面に、一年越しの想いが込められたファーストキャストが投じられた。

 

飛騨川水系、イワナ、アマゴのルアー釣り

 

渓の主役は

なだらかな渓相のイメージから勝手にアマゴの渓と決めてかかっていたけれど、最初に顔を見せたのはイワナだった。
そんな意外性や川の特性を探りながらの釣りはやっぱり楽しい。

 

ジャクソンのミノーに来たイワナ

木下進二朗の釣り写真

 

景色を眺めてはファインダーを覗き、渓魚との駆け引きを楽しんではシャッターを切る。

 

渓流ミノーイングでイワナ釣り飛騨川水系のイワナ釣り

 

イワナの写真

そんな事をしていると日頃の生活の中で刺さくれ立った心の棘も丸く成っていく。
そしてついには独りの世界に浸っていた。

 

飛騨川水系の釣り場飛騨川水系、イワナとヤマメの渓流

透明度の高い水はグリーンの淵を作り、黄褐色の川底と白い岩のコントラストはまるで大袈裟に描かれた絵画の様だ。

その絵から抜け出したイワナがまたルアーにかぶり付く。

いつもハイピッチで釣り上がり数多くのポイントを撃っていくスタイルの僕だけど、この日は、自然の織り成す作品をゆっくりと楽しんだ。

幾つかのポイントを釣り上がってもアメ色のイワナが主役なのは変わらなかった。
しかし、落ち込みに倒木が絡む一等地のポイントで、ひときわ青く鋭い輝きを放つ魚が現れた。
そいつは、2度3度ルアーの後ろを交錯する動きを見せ、僅かにテールを啄むと同時にバタバタと暴れながら流れを下る。
口に付いた異物を必死で振り払おうとする様からは、生き伸びようとする強い意志を感じた。

丁寧にいなしてネットに掬ったそのアマゴは、息を呑む程に美しい魚体だった。

 

美しいアマゴ

 

ここまでの釣果がイワナばかりだった事もあり、「イワナに囲まれながら生きていくのって、しんどくないのかな?仲間が少ないって寂しくないのだろうか?」なんていう心配がふと浮かぶ。
このアマゴからしてみれば「要らん心配」なのだろうけれど…。
人の顔色を窺い、長いものには巻かれ、マジョリティーに混じって生きて来た僕は、そんな彼を少しばかり尊敬した。
そして「負けるなよ」と、厳しい生存競争の世界へと戻る彼を見送った。

 

キャッチアンドリリース

 

素敵な魚との出会いと、日頃の行いへの反省とで複雑な感情を抱いていると、車で留守番している相棒の事を思い出した。
たっぷりと時間をかけて釣り上がった為、帰りはその分急ぎ足で車を目指す。
既に日は高く昇り、首筋にジリジリした感覚を覚えていた。
ところが僕の心配をよそに、日陰に停めた車内が余程快適だったのか、グデンと横に成って気持ち良さそうに眠りこけているのが見える。
寝ぼけた表情で出迎える相棒に、「次はどこへ行こうか?」と告げたのでした。

 

タックル

ロッド:ジャクソン トラウトアンリミテッド 501ULL-AS
リール:シマノ ステラ C2000SHG
ライン:YGKよつあみ G-soul UpgradePE 0.4号
リーダー:ナイロン 5lb.
ルアー:ジャクソン アーティスト FR70・FR55 / アスリート55SFH

撮影機材
カメラ:Nikon D5600
レンズ:SIGMA 18-300㎜ 1:3.5-6.3 DC φ72

ロケーション
飛騨川水系

 

木下 進二朗

PHOTO & TEXT

[IN THE FIELD] The second angler
木下 進二朗

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